BS1スペシャル
密着 自衛隊“ミサイル防衛のリアル”
初回放送日: 2023年3月5日
ウクライナ侵攻や台湾情勢の緊張により注目される「ミサイル防衛」。巡航ミサイルを迎撃する陸上自衛隊の専門部隊に密着。アメリカでの訓練で見えた「防空のリアル」とは?
ウクライナ侵攻や台湾情勢の緊張により注目される「ミサイル防衛」。今や戦争の形態が「ミサイルの撃ち合い」に移行しつつあるなか、日本の空をどうやって守るのか?取材班は迎撃が難しい巡航ミサイルに備える陸上自衛隊の専門部隊に密着。常に先を読みあう「頭脳戦」の実態、さらに去年行われたアメリカでの実射訓練で見えてきたミサイル防衛の難しさも伝える。さらに専門家のインタビューも交え、日本の防空について考えていく。
(番組説明より)
この番組はとても示唆に富んだ内容だったと思うので、備忘録的にインタビューの一部を文字起こししました。
Q. 具体的な訓練については?
藤田 浩和 氏(元陸上総隊司令部 幕僚長)
有事においては、ありとあらゆる事象が生起するというのが通常状態ですので、自衛隊にとっては想定外という言葉は存在しないと思ってます。
訓練を考える者については敵の立場に立って、敵であればどのように攻撃してくるか、あるいはどのように攻めてくるか、例えば不審者、国民なのか不審者なのか分からないような人が入ってきたりだとか、あるいは隊員が突然所在不明になったりするとか、化学兵器の攻撃も考えられますので、それに対応をする防護マスクをつけた行動というのも当然、訓練の中に入ってきます。
Q. 中国軍が台湾を侵攻した場合、日本の重要施設が攻撃を受ける可能性は?
藤田 浩和 氏(元陸上総隊司令部 幕僚長)
台湾有事は日本有事と言われるように非常に近い距離にあります。与那国島に至っては110キロぐらいしかありませんので、必ず中国は押さえにくるという風に考えられると思います。そういった意味で沖縄以南には今までそういう部隊がありませんでしたので、その空白を埋めるために与那国、宮古島、石垣島に駐屯地を開設して、地対艦ミサイル部隊と地対空ミサイル部隊をそれぞれ配置している。
力の空白をなくすということを考えると、あの地域に陸上自衛隊の戦力あるのは非常に抑止力になると思います。中国にとっては艦船あるは航空機が自由に行動できなくなると言う点がありますので、ミサイル部隊がそこに存在する自体、非常に大きな抑止力になると思います。
Q. ミサイル防衛の強化は必要か?
柳澤 協二 氏(元内閣官房副長官補)
今の時代の主流はミサイル戦争ですからね。それは守れるもんなら守っていかなければいけないのだけれども、ではどうするかって言うときにこれは大変だと、戦争になったときに戦えるように備えなければいけない、というそういう方向性は1つあると思うんですね。
やられたらやり返せるように攻撃力を持たなければいけないというような方向に行ってるんだけど、その戦争の心配があるから、何とかその対立関係を戦争に結びつけないような知恵がないんだろうかと言うことを考える。戦争を回避するという問題意識もなければいけないんだろう。
おそらくその両方のバランスが必要なんだと思うんですけど、どうも今の話は戦争に備えるばかりで、その戦争に備えるという方向もやられたらやり返すという攻撃の話にだけ集中していて、実は相手だって攻撃してくるわけです。
戦争と言うのは今ウクライナを見ててもそうですけれども、どこまで相手の攻撃にこちらがどこまで耐えられるかということが実は1番大事なポイントになるんだけど、では攻撃によってどのぐらいの被害を覚悟して、どれくらいの期間持ちこたえなければいけないのかが、全く論じられていない。
これもだから戦争に備えるという論理に立ったとしても、そこのところは全く不十分なんだろうという、今の状況はそういう状況だと私は思います。
Q. 例え自衛隊がベストを尽くしても、敵のミサイル攻撃を完璧に防ぐことは難しいのではないか?
藤田 浩和 氏(元陸上総隊司令部 幕僚長)
基本的には全部を守るということは、ほぼ不可能だと思います。
航空攻撃といいましても、巡航ミサイルもプラットフォームというか発射装置がいろいろありますので、航空機から撃ったり、あるいは地上から撃ったり、船から撃ったり、また見つからないように低高度を地形を縫って飛んできたりするので、全部を撃ち落とすということは多分ほぼ不可能だと思います。
100%守ることはほぼ不可能ですので、対空ミサイル部隊をどこに配置するのかというのは、政策的なものもありますし、優先順位を決めて、守るべきものを抽出していくという作業になると思います。
そこでエアカバー(防空範囲)のかからなかった地域には国民を避難させたり、あるいは安全な場所への誘導、こういったことが日本政府には求められると思います。
Q. 防衛費に限りがある日本の空の守りはどうあるべきか?
柳澤 協二 氏(元内閣官房副長官補)
一言で言うと、これキリがないんですね。
例えばミサイルの撃ち合いも、こちらが一発持てば、それだけ抑止力も上がるのかといえば、その間に相手が三発持っていたら抑止力が下がることにもなりかねないわけで、だからそういう競争をしていたら、本当に際限ない話になっていかざるを得ないんですね。
攻撃能力を持つことが抑止力になるっていう発想が出てくるんですけども、抑止力っていうことは相手が合理的に判断することを前提にしてるわけですね。だからそこが違ってきてしまうと、そこは抑止力の発想そのものが成り立たなくなってくる。
だから、相手の非合理な判断に対しても、常にこちらの方が武力で上回るような抑止力を身に付けようとしたら、これはもうとてつもない、多分国が破綻します。(防衛力の強化が盛んに議論される一方で、見落とされて視点があると指摘)
最近のミサイルの傾向を見ると、飛んできたものを打ち落とすことがますます難しくなっているので、だから発射前に叩かなければいけないと言う発想で、敵基地攻撃、反撃能力というのが議論されてるわけです。
でも。これも本当にそのミサイルが発射準備にあるということをどうやって分かるのか、仮に分かったとしても、それが日本に向かって発射されるものかどうかということをどうやって判断するのかという、非常に難しい問題がある。
そして何よりも考えなきゃいけないのは、相手のミサイルというのは相手の国の本土にあるわけです。それを自衛隊が先に相手の本土を攻撃するという構造になってくるので。そうすると相手は当然、日本の本土に向かっての再反撃というものもあるわけです。
そうやって結果として、ミサイルの撃ち合いの戦争に発展していく。だからミサイルからの安全を図っていたいたはずのものが、ミサイルがもっとたくさん降ってくるような戦争を覚悟しなければいけないという。このこういう矛盾をどうやってカバーしていくのかという政治の発想が、ますます重要になるのだろうと思うんですね。
Q. 軍事大国に対抗できるミサイル防衛とは?
藤田 浩和 氏(元陸上総隊司令部 幕僚長)
やはり自国で日本は守るということが基本になると思います。
来援部隊の米軍が本土から来るのには、少なくとも数週間単位のオーダーがかかると思いますので、その間はやはり在日米軍と日本の自衛隊が協力して、敵の侵攻を防ぐという形になると思います。
日本はロシアが隣国なんですね。隣の国なので、その危機意識というのは日本国民全員が共有すべきことではないかなと思います。やはりウクライナと違うのは、地続きではなく、海に囲まれているので、攻めにくいように思うが、逃げにくいので、国民を国土に抱えたままの戦闘になる可能性があると。
従って、国民を守りつつ戦い抜くというところに非常に日本の自衛隊とって大きな課題があるのではないかなと思いますし、ウクライナと違って地下のシェルターがほとんどないので、そういった点でどのように国民の安全を守るのかは、政府全体で考えていく必要があるのではないかと思っております。
Q. 世界の緊張が高まるなか、日本はどうあるべきか?
柳澤 協二 氏(元内閣官房副長官補)
政治の決断というのは、今飛んできてるものを落とせばそれで終わりじゃないんですね。そこから先に、どういう戦争になっていくのか、いつ終わらせるのか、そもそもそういう戦争になる前に、もっとやるべき事はないのかっていうところで、政治が機能するすべきはそういうところなんだと思うんですね。本当に私は少なくとも政治家の訓練が、こういう部隊の訓練はできますが、政治家の訓練が全くできてないように思うんですね。
私は多分、新しい秩序観が必要なんだろうと思うんです。核を使わないという新たな国際規範を日本が先頭で作っていくとか、文明と価値観が対立して、それが戦争になるというのはすごく愚かしいことだと思うんですね。そこをどうまとめていくような知恵が出てくるかということが、今後何十年の世界の1番大きな課題なんだと思うんですね。
やっぱりここにきて唯一の被爆国であり、戦争で迷惑をかけ、自分自身も大きな被害を被った、そういう日本がもっとそこで「戦争してはいけない」「核を使ってはいけない」というような外交を、しっかりやっていく事は決して私が国際社会で無力じゃないと思うんですね
補足と感想
ミサイル防衛といってもミサイルには大きく分けて2種類あって、それが弾道ミサイルと巡航ミサイル。
弾道ミサイルは、ロケットエンジンにより発射された後、弾道軌道で飛ぶミサイルのことで、北朝鮮が日本に撃ってきているものです。こちらはイージス艦や航空自衛隊のPAC3(地対空誘導弾パトリオットミサイル)で迎撃。
巡航ミサイルは、アメリカの「トマホーク」が有名ですが、長距離を自律飛行し目標を攻撃するミサイルのことであり、こちらは今回の番組で取り上げられた第102高射特科隊の03式中距離地対空誘導弾(中SAM)などで迎撃。もちろん、敵の戦闘機などにも中SAMで対処する。
番組を簡単にまとめてみると、
・実際にミサイルで迎撃するのはゲームのように簡単ではない。
(敵戦闘機の欺瞞飛行、敵味方の識別、レーダーが雲により反射するなど)
・日本には訓練で実弾を発射することができない。
(アメリカのような広い訓練場がない)
・ミサイル部隊の配置は、抑止力として期待されているが、そもそも抑止力というのは相手が合理的に判断することを前提にしてるもので、相手が合理的に判断しない場合は効果がない。
・戦争が開始され、それに対処する戦闘の想定まではしてあるが、実際に戦争が始まった場合、攻撃によってどのぐらいの被害を覚悟して、どれくらいの期間持ちこたえなければいけないのかが、全く論じられていない。
・自衛隊のミサイル部隊の訓練はされているが、自衛隊を指揮する政治家の訓練ができていない。
ここからは僕の雑感ですが、インタビューでもあったように、ミサイルが降ってきたら、全部迎撃することは不可能で、それは昨年のパレスチナによる多数のロケット弾による飽和攻撃でイスラエルの鉄壁を誇る「アイアンドーム」の隙をついたことでも言えます。
もちろん、日本全土をミサイル防衛網でカバーすることは不可能なので、日本が保有するミサイルはほぼ抑止力として存在していると言えるのかもしれません。
(自衛隊の方々の厳しい訓練には頭が下がりますが)
ここで、抑止力っていうことは相手が合理的に判断することを前提としている、というのが自分的にはなるほどと思いました。
それって日常においても、怒りや恋愛感情や飲酒とかによって相手が合理的に判断しないことって十分ありうるなって思いました。そうなると厄介になります。
日本においても自衛隊の装備は揃っていますが、どこかしら中国やロシアは合理的判断により本格的には攻めてこないという前提というか期待の上に成り立っている気がします。
そして、日本政府は戦争が起こったときの場合、的確に対処することは全くできないと思っています。それはコロナに対する政府の対応でも明らかだと思います。
また、有事における政治家の訓練が全くできていないと番組にありましたが、その訓練は(何か重大なことが実際に起きない限り)今後も真剣に行われることはないのかもしれません。
地震などの災害と違って、もしミサイルがリアルに飛んで来たら(多分、そのときは数発では済まないと思いますが)僕は具体的にどうしたらよいのか、全く想像もできません。
実際に、北朝鮮から弾道ミサイルが発射されてJアラートが鳴っても、本気で避難している人は皆無だと思います。
そして、僕はこれからも常に相手の合理的判断をただただ期待して、暮らしていくことと思います。
また、百年後には新しい世界秩序が生まれ、ウクライナとロシアやイスラエルやパレスチナなど、世界から戦争はなくなっているのでしょうか?
そんなことを考えさせてくれる番組でした。
追記
僕のiPhoneは、Jアラートが発令されても何も反応しないので調べてみたら、緊急速報の設定をしていなかったせいでした。
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